「城下町の再生、歴史のまちづくり」愛知県犬山市
1.犬山市と犬山城について
犬山城は戦乱の世、1537年に築城。徳川幕府による「一国一城令」、
明治政府による廃城、1891年の濃尾大震災、そして第二次世界大戦など
幾多の歴史を経ながら、今日、犬山市景観まちづくり施策の中核として位置
づけられ、商店街の人たちと市が緊密な連携をとりながら、観光資源として
さらに充実させようとしています。今回の視察では、旧犬山城下に栄えた商
人の町並みを歴史のまち、景観のまちとしてどのように再生させる取り組み
をしているか、視察しました。
2.行政と住民との協働の体制
住民側
本町通線 「本町通りまちづくり委員会」
新町線 「魚新通りを考える会」
城前・丸の内 「まちづくり検討会」 をそれぞれ組織。
各者が連携して「町並形成のルールづくり」を行う。
一方、「犬山北のまちづくり協議会」「犬山祭保存会」「城下町を守る会」
などボランティア団体との意見・情報交換を行いながら進める。
さらに「中心市街地活性化推進協議会」との連携をとる。
市側
アドバイザー、学識経験者、コンサルタントの助言を得て計画を策定。
「歴史のみちづくり整備計画策定委員会(歴みち委員会)」が中心となり、
県市連絡会議と連携をとる。
住民側、市側、両者が対等な立場に立って協働の姿で推進する体制。
3.具体的な事業展開
すでに平成5年施行の「市都市景観条例」はあるが罰則はなく、拘束力の
ないままにプレハブ住宅が建つなど、功を奏していなかった。
平成14年度、国土交通省「くらしのみちゾーン」の地区募集に応募。
15年度、同省の登録を受けた。
16年度「まちづくり交付金」が事業のスタート。22年完了を目指す。
「車より歩行者・自転車を優先した道路」実現がコンセプト。
17年3月「景観行政団体」となる。景観地区に指定されたところの地元
住民と話をしながらルールを確立していく手法をとる。
18年度から、前記「まちづくり交付金」に基づく「まちづくり委員会」
がスタートする予定であり、法的な力を持つ景観法とリンクさせながら良好
な景観の維持・形成に取り組もうとしている。
@都市景観重点地区の町並み形成
まず、次のような基準を設けている。
○保全型
・昭和初期以前の歴史的建造物の修景・模様替えに対して、
・既存の位置、高さ、屋根、外壁、建具、門・塀の形状を変えない、
○創造型
・新築改築、昭和初期以降の建物の修景・模様替えに対して、
・高さ13m以下、町並みの連続性を崩さない、
・勾配屋根、切妻平入り、日本瓦による屋根、
・外壁は漆喰調、木目調、建具は周辺建物と調和した色彩、
・駐車場はできるだけ設けない、通りの連続感を損なわない、
○両者の共通事項として
・クーラー室外機は格子囲みなどで調和を図る、
・車庫はできるだけ屋内に収納し屋外には車庫を設けない、
・自販機、公衆電話についても周囲の景観との調和を図る、
次に、修景に対する助成制度を設けている。
対象 限度額 助成率
○設計 基準に適合したもの 10万円 1/2
○修景(創造型) 道路から見える部分 150万円 1/3
○修景(保全型) 道路から見える部分 300万円 2/3
○新築改築 道路から見える部材 100万円 1/3
○防災整備 「保全型」にかかる物件 100万円 2/3
○門・塀・車庫等 道路から見える部分 100万円 1/3
なお景観条例上、犬山城の石垣の高さ(35m)までの高さまでは建築OK。
(10階建て程度)
A街なみ環境整備事業
○まちづくり拠点施設の整備
・どんでん館
犬山まつりにおいて引かれる13両の車山「(「やま」という)のうち
4両を格納する建物。(別紙写真)24時間活用可能、まちづくりの
起爆剤的存在。
・しみんてい
・余遊亭
・ポケットパークの整備
・案内板整備
・道路美装化
B住民との協働作業による施設づくり
○上記「どんでん館」は車山の格納機能のほか、住民が集える和室、車山
を見物できる「展示ホール」、城下町の成り立ちを紹介する「企画展示
室」、住民が活動や交流を行う「活動室・交流サロン」を設ける。
平成12年「市有地活用検討委員会」がまち歩きを行い、設計前に3回、
設計段階で3回、設計後に2回のワークショップを開催、その中で「
犬山は、まつりだ」と結論付けが出され、「どんでん館」が誕生。
現在、イベントは道路上だけでなくこのどんでん館もその拠点となり、
また平常は笛や太鼓の練習にも使われている。
○上記「余遊亭」は平成12年、「市有地利活用検討委員会」が立ち上が
り、まち歩きやワークショップで検討、意見を出し合い、模型を作り、
竹で実物模型も体感するなどを経て、公募により、同委員会や市が投票
して設計者選定するという手法をとった。
○上記「しみんてい」は国の「街なみ環境整備事業補助金」(1/2補助)
により平成13年度に完成。市民活動支援センターとして機能。
C中心市街地活性化
○空き店舗活用事業費補助制度
〜まずシャッターを開けていただく〜
・チャレンジマート事業
自ら営業する施設を対象、賃借料の1/2補助、限度50万円/年
期間1年間
・空き店舗活性化事業
市民団体等がコミュニティー施設、展示会場、休憩所に活用するもの
を対象、賃借料の1/2補助、限度50万円/年、期間5年間
・芸術文化伝統産業支援事業
芸術文化、伝統産業の振興に寄与する施設を対象、賃借料の1/3補
助、限度50万円/年、期間3年間
※以上3事業共通で、改装費補助がある。1/2補助、限度100万円
※これまでは一般財源を充当していたが、来年度からは「まちづくり交
付金」を充当できる。これまでの実績300万円程度/年。
※実績として、病院が経営するグループホームやデイサービスセンター
にも助成してきた。今後町屋を利用したグループホームも視野に。
○駅前チャレンジショップ
〜スーパー「ユニー」の撤退跡地を活用〜
・駅前の再整備までの間、地区のにぎわい継続のため、若い世代、商売
未経験者にプレハブ店舗を転貸、本格的出店への契機をつくる。
・犬山まちづくり株式会社(TMO。犬山市からの委託)が運営主体
・店舗数は10(別紙写真)
・契約期間は原則6ヶ月、賃貸料3万円/月、共益費含む。
・3年間継続して出店することを条件とする。
Dその他
犬山城下町再生の取り組み、まちづくり交付金の活用について、詳細は別
添資料のとおり。「感想」において触れます。
4.感想
平成16年6月21日付け、内閣府から「地域再生計画認定書」が犬山市
に交付されました。計画の名称は「犬山城下町再生計画」。国の施策と的確
にリンクさせながら、まちづくりを進めている印象です。
犬山市の掲げるスローガンは「歩いて暮らせるまち 歩いて巡るまち」。
冒頭に述べた歴史遺産を承継しながら、その観光資源としての再生を図る
だけでなく、今日的な課題、すなわち市の外縁部にスーパーマーケットやエ
ンターテイメント施設が画進出するなどの問題とも有機的なつながりを持た
せながら、地域再生を図ろうとしています。
市の外縁部に来た人をバスなどで街に導きいれる、という戦略もしたたか
に抱いており、全市横断的な戦略を持っていることがよくわかります。犬山
城下町だけでは市全体ではない。そこで歴史文化を中心としたスローライフ
を創出し、その中心に城下町を位置付ける、というものであり、これからは
街なかに、若い人も住みたくなるような要素を考案していく、と、意欲的な
説明を担当者から伺いました。
犬山市の立地は、名古屋市という巨大な都市の近郊(電車で25分程度)
であり、かつまたモンキーパークや明治村、長良川観光といったさまざまな
好条件を有しており、そのまま丸亀市に当てはめることは難しい面もありま
す。しかしながら例えば、川の向こう岸は岐阜県であり、市単独の閉じられ
た再生計画でなく隣の市、隣の県までも広域に巻き込む意欲的な一面を持っ
ており、わたしたちが訪問したまさにその日が、隣市との景観協定を結ぶ日
でありました。このように市を挙げて、非常に積極果敢にまちづくりに取り
組んでいるという印象を強く感じました。
犬山市を訪れた観光客は、団体バスで乗りつけ、犬山城を見物して、それ
から高山へ、下呂温泉へと投宿に移動する、という現状はあるが、そうでは
なく、リュックを背負ってぶらぶら歩くという観光客に、終日この城下町を
歩いていただくという考え方で、新しい観光誘致の方向性を抱いているとの
ことです。
さて、丸亀市に置き換えて、少し考えてみます。
先日、筆者(内田)は、市内商店主有志の方々と懇談の機会がありました。
商店街活性に問題意識を持っておられる、まさに「有志」なのであり、商
店街の代表者ではありませんが、これから町の駅「秋寅の館」を起爆剤に、
どうやって商店街を復興させるか、という課題に、意欲の高い方々でありま
した。
行政も大変に財政逼迫の折であり、その共通認識はあるものの、やはり市
から何らかの財政援助がなければ動きがとれない、との気持ちは根強く、そ
の場に列席されていた大学教授など外部有識者からは、そうではなくまず有
志でできることから、そして商店街から遠い地域に住む人たちの意識と声を
どう巻き込むかという視点をまず据えていくべき、との意見が出されていま
した。
その後、その場でも話題に出た観音寺市の「柳町商店街」の振興策として
行われたイベントが折りよく銭形まつりと同日に開催されることを知りまし
たので、私はそちらを訪問してきました。たまたま現地で、私の丸亀市内に
住む知人で、そのイベントに深く関わっているという方と会いました。そこ
でこれから、何か参考になることも、この方の応援いただき、得られるので
はないかと、いま思っているところです。
今回犬山市を視察訪問し、その取り組みの先進ぶりに、いわば、どこから
手をつけていいのかわからない、という戸惑いもありますが、少なくとも、
まず行政のまちづくりへの横断的な発想ができる体制づくりが先決であり、
次に、商店街挙げての推進体制と意識の高揚が必要と思います。
おそらく、行政は「商店街がいい案を出せば検討する」という姿勢であり、
また商店街は「行政から補助をくれることが先決」という姿勢であり、この
ままでは一向に、突破口が見出せないままというのが現状であろうと思いま
す。
そこで先述の有志の方々との懇談の機会をこれから有効に育てていき、私
もその推進の一員としてできる限り尽力させていただきたいという思いです。
さらに、丸亀市には猪熊弦一郎現代美術館が駅前に立地しており、時あた
かも指定管理者制度への移行の時期で、財政困難を背景として、ややもすれ
ば美術館そのものも経営の行き詰まりが心配されているところです。私は、
地域の再生のために一刻も早く、こうした個々別々に運営されている要素を
トータルに結びつけ、構想できるシステムを立ち上げなければならないと痛
感しています。
先日の商店主との会合の席上、この春出来上がった「こんぴら街道」の構
想についても、まだご存じないという商店主がおられました。このことが象
徴しているように、産業部門、文化部門、美術館などがそれぞれ別々の行動
をしているのである限り、犬山市で見たような取り組みは望むことができな
いと思います。
犬山市の例に戻りますが、城下町の商店街の活性化について、「外観は景
観条例による補助制度で、中身は中心市街地活性化政策で」という重層的で
トータルな制度が出来上がっているのであり、いわゆるタテ割的な行政の発
想では、この後一歩も前に進むことができない、という難問に直面すること
に頭を悩ませます。
けれどもそれら全体を見渡して、一日も早く、述べてきたような戦略が整
備されなければならないのであり、個別の運営主体者たちが一同に会して、
ともかく問題意識を持ち寄る場面を作り上げなければならないことだけは確
かです。
犬山市を訪問して、今回私たちに説明をしてくださったのは都市整備部都
市計画課の職員でありましたが、中心市街地活性化政策を担当しているのは
農林商工課であるとのことでした。けれどもきわめて細部まで、この都市計
画課担当者はトータルなまちづくりについて知悉しておられました。そして
静かな語り口の中にも、そしてまた説明の後、実地に商店街やどんでん館、
犬山城など案内していただきながらの説明の中にも、情熱的にこの事業に取
り組んでおられる姿勢が非常に強く印象に残りました。
私どもはこの犬山市視察で得たものを最大に行政、商店街、さらにまちづ
くりに熱意を持たれる市民各位に強く訴え、役所と市民との協働のまちづく
りの「場」創出に、まず力を注いでまいりたい。